<<28 突然の・・>>

夕食後のテーブルで、コーヒーを飲みながら、彼が突然・・


ねぇ、君のマンションを引き払って、ここで暮らさないか?


驚いて見開いた眼を見つめながら、彼が続ける・・、テーブルの下で、私の足を挟む彼の足に、力が入った。


君がここにいないときね・・。


眠りに付くのはモンダイなしだけど、夜中にトイレに起きて、君がいないことに気付くとね・・



昨日、散髪に行ったんだよ・・、


突然の話題変更について行けない・・、



80年代J-POPが流れててね、松田聖子とか中森明菜とか、殆どは知ってる曲ばっかだったけどね、ひとつだけ、耳に残った。


歌い手が誰かはともかく、人の寝息がベッドにあれば・・、ってフレーズを聞いて、はっとしたんだ。


君の寝息がベッドにあれば・・、そう思ったよ。



でね、昨日、その足でコレを貰って来た・・、開けてごらん。


渡されたA4の封筒から出てきたのは・・、婚姻届け・・!


片方の欄は全て記入済み、彼のハンコが押してある!


眼を丸くするだけで言葉が出ない私に、彼の言葉が突き刺さる。


その扱いは君に任せるよ、ぼくはね、結婚なんて形は、どーでもいいんだ。


君の傍に居たい、君に傍にいて欲しい、只々そう願うだけ。


でも、ここで暮らすとなれば、君にはいささか面倒かな、と思ってね・・


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様々な思いが駆け抜ける。


彼が言うベッドの・・はきっと、私がお風呂で抱く思いと同じだろう。


このマンションでは、ひとりでお風呂に入ったことが無い。


女の子の日でさえ、彼にタンポンを入れてもらって、二人で入る。


バスルームでのいちゃいちゃはもちろんのこと、塗れた体を拭った後、下着選びにもワクワクする。


その夜、エッチが有っても無くても、彼のための下着を纏う。


なのに、ひとりのマンションでは、なにも考えずにユニクロスタイルに。


確かに私も、彼の傍に居たい、彼に傍にいて欲しい、そう願っている。



彼にタンポンを・・、なんてこと・・! そう思った瞬間に、私は彼を愛している、と確信した。


オンナがオンナである、その場所を晒し、ツルツルにされ口づけされ、タンポンまで・・、


私は、その全てに快感を覚え、幸福感に満たされる・・、これが愛でないなら・・!


彼がいなくては、生きてゆけない・・!


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いいわ、で、引っ越しはいつ・・?


そう答えながら、婚姻届けの空欄を、埋め始めた・・!